何度か日本語や言葉の奇妙さに触れた記事を書いたことがある。特に、「ことわざ」や「格言」、「四字熟語」、「座右の銘」がその典型例であろう。こういう類の言葉は、時として、先人たちの経験に基づく教訓だったり、忠言に相当するようなものであったり、あるいは自重や自律、自戒を促すために存在したり、思慮深い行動で慎重に事を運ぶための警鐘めいたものだったりする。要は社会生活においての注意書きのようなものであり、転落人生に陥らないためのお触れである。
しかし、それらの有難たい言葉を眺めてみると、明らかに反対の意味を持つものも少なくない。何とも言い逃れのような、言い訳がましく、都合のよい解釈ができるように出来ていると感心することさえある。
ではまずはことわざの中で、反対の意味を持つものを列挙したい。
・「転ばぬ先の杖」⇔「泥棒を見て縄をなう」
・「月とすっぽん」⇔「紙一重」又は「拮抗」
・「栴檀は双葉より芳し」⇔「大器晩成」
・「立つ鳥後を濁さず」⇔「旅の恥はかき捨て」又は「後は野となれ山となれ」
・「一石二鳥」「一挙両得」⇔「二兎を追うものは一兎を得ず」又は「虻蜂取らず」
・「危ない橋を渡る」⇔「石橋を叩いて渡る」
・「瓜の蔓になすびはならぬ」「蛙の子は蛙」⇔「鳶が鷹を生む」
・「溺れる者はわらをもつかむ」⇔「鷹は飢えても穂をつかまず」
・「まかぬ種は生えぬ」⇔「鴨がネギしょってやって来る」又は「果報は寝て待て」あるいは「棚からぼた餅」
・「弱い犬程よく吠える」⇔「能ある鷹は爪を隠す」又は「鳴かない猫は鼠捕る」
・「善は急げ」「先手必勝」⇔「せいては事を仕損じる」または「急がば回れ」
・「三人寄れば文殊の知恵」⇔「船頭多くして船山に上る」
・「渡る世間に鬼はなし」⇔「人を見たら泥棒と思え」
・「二度ある事は三度ある」⇔「柳の下のどじょう(三度目は無いよ、の意)」又は「三度目の正直」
・「下手の道具調べ」⇔「弘法は筆を選ばず」
・「あばたもえくぼ」⇔「坊主憎けりゃ袈裟まで憎い」
・「覆水盆に還らず」⇔「元のさやに収まる」
・「武士は食わねど高楊枝」⇔「腹が減っては戦ができぬ」
・「待てば海路の日和あり」⇔「思い立ったが吉日」「先んずれば人を制す」
・「山椒は小粒でピリリと辛い」⇔「独活(うど)の大木」
・「美辞麗句」⇔「罵詈雑言」又は「悪口雑言」
・「馬子にも衣装」⇔「公家にも襤褸(つづれ」)
・「果報は寝て待て」⇔「まかぬ種は生えぬ」「春眠暁を覚えず」
・「好きこそものの上手なれ」⇔「下手の横好き」
・「君子危うきに近寄らず」⇔「虎穴に入らずんば虎児を得ず」
・「天網恢恢疎にして漏らさず」⇔「仏の顔も三度」
・「勝てば官軍」⇔「逃げる(負ける)が勝ち」
・「一年の計は元旦にあり」⇔「終わり良ければすべてよし」「有終の美」
おかしなニュアンス
・「猫の手も借りたいほど忙しい」というが、猫の手ってどこにあるのか?
猫などの四足歩行動物は、前足と後足しかないはず。足を手とは呼ばない。したがって猫に手はない。肉球がある場所は手とは呼ばない。屁理屈かもしれないが、もしかすると、忙しすぎて無い物まで借りたいということの例えなのか?
・「蛙の子は蛙」
蛙の子はお玉じゃくしではないのか?これもあれっ?という?マークが脳裏に浮かぶ。蛙の子はおたまじゃくしだが、成長するとやっぱりカエルにしかならず、他の生物に化けることはなく、突然変異は起きないということを言いたいのだろう。随分先読みしたことわざだ。
要は何とでも解釈できる逃げ道があるのがことわざで、それは先人の体験に基づいた事象を言葉に落として表現したからこうなるのだ。もちろんその通り励行して成功することもあるだろうし、「待てば海路の日和あり」を真に受けて好機を逃がすこともある。結局は「ケース・バイ・ケース」なわけで、それは気の持ちようで、他力本願的な日本人気質を如実に表しているのがこうしたことわざという気がする。
続いて日本人が好きなことわざと四字熟語をランキングでお送りしたい。
1 「一期一会」
2 「明日は明日の風が吹く」 若年層に多い、他力本願的でなりゆき任せ
3 「継続は力なり」
4 「人事を尽くして天命を待つ」
5 「歳月人を待たず」「光陰矢の如し」
6 「為せば成る、為さねば成らぬ何事も」
7 「まさかの友が真のとも」
8 「唯我独尊」 我が母校の慶應は「独立自尊」が校訓
9 「精神一到何事か成らざらん」
10 「蓼食う虫も好き好き」
11 「時は金なり」
12 「勝って兜の緒を締めよ」
13 「情けは人の為ならず」
14 「七転び八起き」
15 「完全無欠」
16 「棚からぼた餅」
17 「勧善懲悪」 年配者に多い
18 「千里の道も一歩から」
19 「天上夢幻」
20 「雨降って地固まる」
21 「不言実行」
22 「勇往邁進」
23 「花鳥風月」
24 「質実剛健」
25 「後は野となれ山となれ」
26 「待てば海路の日和あり」
27 「天網恢恢疎にして漏らさず」
28 「明鏡止水」
29 「笑う門には福来る」
30 「冬来たりなば春遠からじ」
31 「晴耕雨読」
32 「温故知新」
33 「郷に入っては郷に従え」
34 「内助の功」
35 「一日一善」
36 「当たるも八卦当たらぬも八卦」
37 「千客万来」
38 「一日千秋」
39 「勇猛果敢」
40 「縁の下の力持ち」
41 「百花繚乱」
42 「備えあれば患いなし」
43 「水心あれば魚心」
44 「日進月歩」「時々刻々」
45 「天は自らを助けるものを助く」
46 「朱に交われば赤くなる」
47 「勝ち馬に乗る」「長いものに巻かれろ」
48 「堅忍不抜」
49 「千載一遇」
50 「百発百中」
これが日本人が好きなことわざなのだそうだ。
それはかえって楽しいじゃないか。
思わぬところから、自分の人生のヒントを見つけるだろう。
最後に、私自身が気に入っているフレーズを紹介し結びとしたい。言葉の響きが実にいい。
いにしえの歴史浪漫
風薫る五月
四季折々
天高く馬肥ゆる秋
弱気は最大の敵(津田恒美)
未来永劫
来し方行く末
感無量
天衣無縫
天真爛漫
天上夢幻
森羅万象
天地神明に誓って
生き甲斐
夢心地 夢一夜
宵の刻
夢追い人
奇想天外
唯一無二
一網打尽
縦横無尽
臨機応変
明日ありと思う心の仇桜
三日見ぬ間の桜
ばら色の人生
喜色満面
春和景明
青は藍より出でて藍より青し
出藍の誉れ
小春日和
うたかた
静寂(しじま)
艶やか
朧月夜
まどろむ
刹那
かりそめ
時代絵巻
強い者が勝つのではない。勝った者が強いのだ(勝てば官軍的)
美人薄命
日の出の勢い
破竹の快進撃
新進気鋭
月下氷人
若気の至り
そぞろ歩き・放浪
電光石火
一網打尽
一期一会
無限大
旅情
平穏
鶴は千年、亀は万年
思慕
追憶
原点回帰
終始一貫
初志貫徹
一度地獄を見ると、世の中につらい仕事はなくなるんです。苦しい経験を若いうちにするからこそ、得られるものもある
成功の反対は失敗ではなく、「やらないこと」だ
前向きにもがき苦しむ経験は、すぐに結果に結びつかなくても、必ず自分の生きる力になっていく
「負けたことがある」というのが、いつか、大きな財産になる
常に今日は明日の準備ですからね。今日やったことは必ず明日に返ってくるんです。
言葉には生きる力を感じる。価値の無いことわざや四字熟語などない気がしてきた。それは先人たちが経験し、戒めとして後世に残そうとしたもので、人生の糧となる言葉や名言が数多くある。人生の支えとなるものばかりで、それを座右の銘と呼ぶ。
さて、あなた自身が人生を豊かに過ごすための座右の銘は何だろう。一般的な日本人が愛する言葉だろうか、それとも唯一無二の独創的なものだろうか。
記事作成:平成26年12月17日(水)