生命保険会社で独自に行っている調査には、時々興味を掻き立てられるものがある。例えば、私も加入している「第一生命」は、ディスニーランドの公式スポンサーになっているだけあって、毎年それに纏わるオリジナルキャラクターグッズが貰える特典付きで、何かと重宝している。でもなぜか著作権絡みなのかは不明だが、同会社のグッズ(カレンダー・タオル・メモ帳など)に描かれるミッキーマウスには眉毛がない。その第一生命が毎年顧客に公募し、発表しているものに「サラリーマン川柳」がある。世の男性が家庭での居場所がない切ない状況やサラリーマンが共感してしまう日常体験の悲哀、時代風刺やその年の世相などが如実に反映している力作が多く、思わず吹き出してしまったり、あるいは一服の清涼剤となるものまであって、実に愉快だ。
一方、同じく生保会社の「明治安田生命」が毎年恒例で実施している調査は、業種柄いかにもだが、「子供に付けたい名前ランキング」だ。こちらも顧客にアンケート調査を行い、同社が集計した順位を発表するというもの。今回のテーマは後者のものを拝借したい。
かつて子供につける名前と言えば、概ね相場は決まっていた。男の子は「けん」が多かった。往年の有名芸能人を見ても、「高倉健」「上原謙」「宇津井健」「田中健」「緒形拳」などがそうで、長男なら「~一」や次男であれば「~二」や「~次」という具合だ。そしてやたらと「○○お」という名前が圧倒していた。同級生の中にも「和夫」「勝男」「隆夫」「幹夫」「正夫」「義男」「紀雄」「富士夫」「徳雄」「幸夫」「敦夫」「光男」など漢字は違えど、読みは同一だった。何か昭和を代表する名前のオンパレードだ。おそらく50代以上の方の多数が「○お」のような気がする。
一方、女の子の名前は「○子」がやたらと幅を利かせていたように思う。中には「小百合」とか「恵」、「○美」という字を使う方も多かったが、昭和の時代は、「○子」は時代の象徴だった。一例をあげれば、「和子」「知子(朋子・友子)」「明子(晃子・章子)」「智子(聡子)」「美智子」「真理子」「美奈子」「節子」「広子」「雅子(正子・昌子)」「陽子(洋子)」「佳子」「良子」「紀子」「今日子(京子)」「康子(泰子)」「麻子」「真子」「美香子」「純子(順子)」「春子」「美佐子」「久美子」「美恵子」などである。こちらも女性の有名芸能人にいかに多かったか。「原節子」「三田佳子」「白川和子」「吉沢京子」「仁科亜希子」「坂口良子」「秋吉久美子」「岸田今日子」「南田洋子」「夏目雅子」「桜田淳子」などがそうだ。
ところが、時代は移り変わり、現代においては、その傾向や風潮は異なり、その時代によって流行があるようだ。近年は、「雄」「優」「勇」「悠」「侑」「祐」の字を使った「ゆうた」「ゆうき」「ゆうや」「ゆうま」「ゆう」「ゆうすけ」などが多く見られる。また、「ひろみ」や「ちひろ」など男子にも女子にも使えるような名前も多く目にする。女の子も「子」がつく名前がめっきり減ってしまった。
これらの名前の変遷から、現代社会では時代背景や出来事、流行りものや思潮によって、何か特徴はないものかと思案し、好奇心を掻き立てられた。おそらくは、子供に命名する場合、画数を気にする親もいるだろうし、親の名前からひと文字貰うケースも多い。また、青春時代に自分がお熱を上げていたアイドル歌手や映画スター、俳優や女優、あるいはその年に話題を集めた有名スポーツアスリートの名前をそのまま自分の子供に付ける場合がある。江川が登場した時には「卓」が、昭和55年に早実の荒木大輔が華々しい活躍をした時と怪物松坂が登場した年には、「大輔」が持て囃された。最近は「翔平(大谷)」が人気だとか。また水谷豊や柴田恭兵、桑田佳祐が人気があった時代には、その名前が流行したし、木村拓哉が大好きだった女性は、息子に同じ名前を付ける例も多かった。
それでは調査結果をもとに検証してみたい。お借りするデータは今世紀(2001年以降)の「明治安田生命」の調査結果であり、年ごとだとさほど変化はないと容易に想像できるので、隔年で見てみたい。なお、その年周りにどのような出来事があって、誰が話題となったかも資料として提示したい。果たして因果関係はあるだろうか。
2000年 ミレニアム シドニー五輪開催 高橋尚子が金メダル
2001年 9.11テロ 浜崎あゆみレコ大賞
男の子 女の子
1位 大輝 1位 さくら
2位 翔 2位 未来
3位 海斗 3位 七海
4位 陸 4位 美月
5位 蓮 / 翼 5位 結衣
2002年 ソルトレーク五輪 日韓共催サッカーW杯 日本ベスト16
2003年 浜崎あゆみレコ大賞
男の子 女の子
1位 大輝 1位 陽菜
2位 翔 2位 七海
3位 大翔 3位 さくら
4位 翔太 4位 凛
5位 匠 5位 美咲 / 葵
2004年 アテネ五輪 谷亮子、吉田沙保里金メダル
2005年 倖田來未レコ大賞
男の子 女の子
1位 翔 1位 陽菜
2位 大翔 2位 さくら
3位 拓海 3位 美咲
4位 翔太 4位 葵
5位 颯太 5位 美羽
2006年 トリノ五輪 荒川静香金メダル ドイツW杯 斎藤佑樹ハンカチ王子
2007年 ハニカミ王子石川遼 コブクロレコ大賞
男の子 女の子
1位 大翔 1位 葵
2位 蓮 2位 さくら
3位 大輝 3位 優奈
4位 翔太 4位 結衣
5位 悠斗 / 陸 5位 陽菜
2008年 北京五輪
2009年 EXILEレコ大賞
男の子 女の子
1位 大翔 1位 陽菜
2位 翔 2位 美羽
3位 瑛太 3位 美咲
4位 大和 4位 美桜
5位 蓮 5位 結愛
2010年 バンクーバー五輪 浅田真央銀メダル 南アフリカW杯 本田圭佑
2011年 東日本大震災 なでしこJAPANワールドカップ初優勝 AKB48レコ大賞
男の子 女の子
1位 大翔 1位 陽菜
2位 蓮 2位 結愛
3位 颯太 3位 結衣
4位 樹 4位 杏
5位 大和 / 陽子翔 5位 莉子 / 心愛 / 愛菜
2012年 ロンドン五輪 内村航平金メダル 吉田沙保里3連覇 卓球団体銀メダル
2013年 EXILEレコ大賞
男の子 女の子
1位 悠真 1位 結菜
2位 陽翔 2位 葵
3位 蓮 3位 結衣
4位 大翔 4位 陽菜
5位 湊 5位 結愛
ちなみに「ベネッセコーポレーション」の調査では以下の順位だった。
男の子 女の子
1位 大翔 1位 結菜
2位 蓮 2位 陽菜
3位 悠真 3位 葵
4位 湊 4位 結愛
5位 陽斗 5位 結衣
2014年 ソチ五輪 羽生結玄金メダル ブラジルW杯
以上、ここ13年を振り返っても、男の子の「翔」「蓮」が人気傾向は続き、女の子は「陽菜」「結衣」が上昇傾向。
さて、いかがでしたか。予想通りか、はたまた意外な名前がランクインしていたでしょうか。いずれにしてもあと数年したら、小中学校ではこれらの名前が間違いなくクラスに複数いることでしょう。佐藤や鈴木、高橋、渡辺などの姓では、同姓同名のケースが多くなるかもしれない。これらは、一民間企業の調査結果なので、これがすべて正確な統計かと言えばそうとも言い切れない。あくまでサンプル調査の域から脱せない。
いずれにせよ、親が子供に付ける名前には、「すくすくと育ってほしい」とか親の切なる願いや期待込められている。最近は、あまりにも凝りすぎて一度では読めないものや当て字が多くなっている。明らかに名前負けしているものさえある。「名は体を表す」という格言もあるが、親が頭を捻って考え抜いて命名してくれた名前に感謝し、それに相応しい人間になってほしいものである。
最後に、私が見る限り、予想していたような因果関係を感じることはなかったのは少し寂しい気がする。
記事作成:6月26日(木)