30年前の1988年と言うと、私が大学を卒業した年だ。当時は「バブル景気」の真っ只中にあり、世の中は何かと色めき立っていた。
現在の「平野ノラ」や登美丘高校ダンス部が当時の盛り上がりを再現および代弁してくれているように、その時代には確かに「空前絶後の勢い」があった。
10年ひと昔とすれば、その3倍も昔のことを話題にするのは、理解してくれる方が少ない分、イマイチ気が引けるが、そんな夢にような時代と2018年の今年を比較すれば劇的に変化したことがある。それは政治でも経済情勢でもない。それは公共施設や職場において「煙」が完全に排除されたことだ。「煙」とはもちろん、「タバコ」のことだ。
1980年代から90年代は夜の11時を過ぎると、各テレビ局が一斉にタバコのCMを放映した。昔は「ハイライト」や「わかば」、「峰」、「ピース」などが持て囃されたが、「セブンスター」や「マイルドセブン」が発売されると、それらが時代の寵児となり、おしゃれなパッケージが時代を闊歩した。とりわけバブル期には、オシャレな洋モクや横文字のタバコ、ビールがブームとなった。「Lucky Strike」、「Cabin」、「Lark」、「パーラメント」、「CAMEL」などが売れに売れたし、ビールはオシャレパッケージNo.1の「バドワイザー」や「カールスバーグ」、そして「ハイネケン」などが店頭に並んだ。外国の俳優がアメリカンタイプのバイクを駆って広い荒野の一本道を走らせ、路肩で一服というのがお決まりのスタイルだった。こうしたカッコイイCMも喫煙率を高めたに違いない。
しかしながら、2000年頃から健康志向が高まり、「キャスター」、「テンダー」、「マイルドセブンライト」などの低タールのタバコが発売され、「タバコの害」に関する啓蒙活動の結果、それに呼応するかのように喫煙者は減少の一途を辿っている。一方では、愛煙家は次第に肩身が狭い思いを強いられるようになった。その間、分煙化に始まり、今ではJRの車内やプラットホーム、病院、ファミレスまでもが完全禁煙化が図られるまでに至った。
愛煙家は屋外でも煙たがられ、日の目を見ない建物の片隅あるいは物陰で喫煙するようになり、まるで犯罪者扱いのような冷遇ぶりだ。
かくいう私の身辺でも義父と義弟はスモーカーだったが、一時期、頑なに節煙や禁煙を拒み続けてきたが、時代の風潮に逆らいきれず、今では2年以上も禁煙を貫き、今では吸わなくても平気でいられるようになった。その反動で、激太り状態に陥っているが・・・。
また、手前の恥をさらすようだが、私の実父はタバコが原因で早死にした。もうかれこれ15年前になるが、親父はそれは大変なヘビースモーカーだった。若い頃から常に「ハイライト」を胸ポケットに忍ばせ、暇さえあれば自宅、仕事場車内などいたるところでプカプカやっていた。仕事上がりには夜な夜なパチンコに出かけ、茶色い袋一杯のタバコやチョコなどの景品を持ち帰っては煙をそこらじゅうに撒き散らす張本人だった。おそらく毎日3箱ずつは開けていたはずだ。
それだけでは飽き足らず、買うのが億劫だと、専売公社に申請を20回以上繰り返し、ようやく販売許可を取り、自宅でタバコを売り始めた。これが親父の寿命を一気に縮めた。それからというのは家族の心配や忠告を一切受け付けず、処構わず煙を炊きまくり、一方では、私たち家族は長年、親父の吐く煙によって肺がやられ、気管支炎になるほどだった。茶の間の天井は煤で真っ黒になり、換気してもしつこいタバコの臭いは消えることは無った。
タバコの有害さに関する知識が疎く、受動喫煙という言葉すらなかった時代。無知とは恐ろしいもので、長年、家族に迷惑をかけ続けた親父は、60代後半で肺気腫を患い、その後、呼吸器不全に陥り、平成15年の暮れに誰にも看取られることなく、急逝した。思えば身勝手すぎる人生だった。
ところで、本題の日本人の喫煙率だが、恐ろしいことに20歳以上の喫煙率の変化を調査したデータによれば、私が生まれた後の昭和40年代は成人男性のなんと80%を超える人が喫煙をしていた。つまり10人中8人以上が喫煙者だったのだ。がんの発症率はもちろん「三大成人病」による死亡率がうなぎのぼりに上昇した時期と合致する。
では厚生労働省の調査と専売公社およびJTが調査した喫煙率の結果を一覧でご覧いただきたい。
日本の喫煙率の推移(男性)
20代 30代 40代 50代 60代 70以上 平均
1990年 52.9% 63.3% 56.6% 50.1% 51.8% 38.8% 53.1%
1995年 60.9% 60.8% 58.4% 554.2% 47.0% 31.1% 52.7%
2000年 60.8% 56.6% 55.1% 54.1% 37.0% 29.4% 47.4%
2005年 48.9% 54.4% 44.1% 42.5% 34.0% 20.0% 39.3%
2010年 34.2% 42.1% 42.4% 40.3% 27.4% 15.6% 32.2%
2011年 39.2% 43.9% 40.2% 37.3% 29.3% 16.6% 32.4%
2012年 37.6% 43.2% 43.2% 31.0% 31.9% 16.9% 34.1%
2013年 36.3% 44.0% 39.5% 41.5% 33.2% 14.5% 32.2%
2014年 36.7% 44.3% 44.2% 36.4% 32.5% 15.1% 32.2%
2015年 30.6% 41.9% 37.7% 37.2% 29.4% 15.2% 30.1%
2016年 30.7% 42.0% 41.1% 39.0% 28.9% 12.8% 30.2%
この26年間で23%も喫煙者が減ったのは驚くべき数値だ。
日本の喫煙率の推移(女性)
20代 30代 40代 50代 60代 70以上 平均
1990年 11.9% 11.0% 11.3% 8.0% 8.5% 7.2% 9.7%
1995年 16.9% 13.2% 11.1% 9.1% 7.6% 6.3% 10.6%
2000年 20.9% 18.8% 13.6% 10.4% 6.6% 4.0% 11.5%
2005年 18.9% 19.4% 15.1% 12.4% 7.3% 2.6% 11.3%
2010年 12.8% 14.2% 13.6% 10.4% 4.5% 2.0% 8.4%
2011年 12.8% 16.6% 16.5% 10.2% 6.4% 3.0% 9.7%
2012年 12.3% 11.9% 12.7% 11.9% 8.0% 2.9% 9.0%
2013年 12.7% 12.0% 12.4% 11.8% 6.4% 2.3% 8.2%
2014年 11.7% 14.3% 12.8% 12.3% 6.3% 2.5% 8.5%
2015年 6.7% 11.0% 11.7% 11.1% 8.3% 2.3% 7.9%
2016年 6.3% 13.7% 13.8% 12.5% 6.3% 2.3% 8.2%
一方で女性は男性に比べて、喫煙率自体は低いが、この26年間でさほど喫煙者に変動が無い。これは何を意味するのか?女性の社会進出でストレスが溜まり、その解消でタバコに手を出す人が増えているのと、あとはおしゃれ感覚も手伝っているようだ。女性が出産を考えれば喫煙は有害以外の何物でもないが、最近は男性と同数くらいパチンコ店には40代以上の女性がいるし、くわえタバコでパチンコや麻雀に興じる女性がいかに増えたかしれない。
また、専売公社時代からのJTが調査した古い資料を抜粋して紹介したい。
年代別・男女別喫煙率
20代 30代 40代 50代 60以上 平均
昭和40年 男 80.5 84.7 86.7 81.4 74.6 82.3
女 6.6 13.5 19.0 23.0 23.0 15.7
昭和45年 男 79.9 78.4 81.0 78.3 67.8 77.5
女 9.8 13.0 16.1 23.3 20.0 15.6
昭和50年 男 81.5 77.0 76.3 78.6 65.8 76.2
女 12.7 13.5 15.7 17.9 16.8 15.1
昭和55年 男 77.1 73.4 69.1 70.0 60.0 70.2
女 16.2 14.2 14.4 12.8 14.6 14.4
昭和60年 男 71.8 70.2 63.1 63.3 55.2 64.6
女 16.6 14.2 13.2 12.6 12.4 13.7
平成元年 男 67.5 68.5 64.5 57.3 49.5 61.1
女 16.4 14.7 13.8 10.4 8.6 12.7
平成5年 男 65.4 66.2 65.6 53.9 46.7 59.8
女 20.8 17.6 13.0 10.8 8.2 13.3
平成10年 男 63.7 61.4 60.2 54.7 40.9 55.2
女 23.5 16.7 13.2 12.5 6.5 13.3
平成15年 男 54.1 59.9 56.3 50.3 32.9 48.3
女 20.3 20.9 15.5 12.7 6.9 13.6
平成20年 男 41.0 46.0 47.8 46.4 27.0 39.5
女 18.1 19.3 17.9 13.4 6.0 12.9
平成25年 男 29.9 39.9 41.0 36.4 23.8 32.2
女 11.1 14.5 13.9 13.9 6.3 10.5
平成29年 男 22.8 32.1 36.7 35.1 21.2 28.2
女 7.0 11.5 13.7 13.1 5.6 9.0
出展 http://www.health-net.or.jp/tobacco/product/pd090000.h tml
一方、2016年の調査で喫煙率が高い都道府県を挙げると・・・
男性 1位 佐賀県 37.5% 女性 1位 北海道 16.1%
2位 青森県 36.5% 2位 青森県 12.2%
3位 岩手県 36.2% 3位 神奈川県 10.9%
4位 北海道 34.4% 4位 千葉県 10.8%
5位 福島県 34.4% 5位 福島・埼玉・北海道10.7%
福島県は47都道府県中、第5位という高い喫煙率だ。見ると北海道や東北
地方など寒い地域に喫煙者が多い傾向がある。
また、国別に喫煙率を見ると・・・
ワースト5位は以下の通り
男性 1位 インドネシア 71.7% 女性 1位 チリ 26.0%
2位 ラトビア 52.0% 2位 ハンガリー 21.7%
3位 中国 47.6% 3位 スペイン 20.2%
4位 ロシア 45.1% 3位 フランス 20.2%
5位 トルコ 37.3% 5位 イギリス 19.0%
日本 30.1% 日本 7.9%
ところで、2月19日付のヤフー掲載の産経新聞ニュースで、厚生労働省は、他人のたばこの煙を吸い込む受動喫煙対策の全面実施を平成32年4月1日にする方針を固めた。飲食店などの喫煙専用室の設置工事期間を考慮したためだ。 同年7月から始まる東京五輪には間に合わせる方針。
受動喫煙対策を盛り込んだ健康増進法改正案によると、学校、病院、児童福祉施設、行政機関などは今年から来年夏ごろまでを事前の周知期間とし、来年夏ごろから原則、敷地内禁煙とする。ただ、屋外で必要な措置が取られた場所では喫煙を認めるとしており、昨年3月に公表した当初案と異なり、例外を設けた。
遅ればせながら、受動喫煙について国がその有害さを認め、ようやく重い腰を上げ、実現に踏み切るのは、東京五輪で世界各国から日本を訪れる観光客、あるいは観戦客にクリーン都市「東京」を印象付ける狙いがあるものと見られる。
非喫煙者である私からすれば、煙草の有害さは30年も前から指摘されていたのに「たばこ税」の税収を当て込んでいたり、利潤追求を優先したからにほかならない。 国が規制をかけることによって、さらに平均寿命は延び、男女共に世界一の長寿国を堅持するのは揺るぎのない事実だ。
最後に、タバコの害についてよくわかる動画を紹介して結びとしたい。
記事作成:2月19日(月)