今年、巨人は若手への世代交代を早め、40歳の高橋由が14人目の巨人軍監督に就任した。歴史と伝統ある巨人軍の監督は、想像を絶する苦労があると察しが付く。常勝を義務付けられ、優勝を逃そうものなら、世間から相当のバッシングを浴びる。その責任重大なポストを引き受けたのが、弱冠40歳の高橋由伸だったから驚いた。慶應OBの彼は、卓越した打撃理論を持ち、それを実践し、素晴らしい成績を積み上げてきた。ナインの信望が厚く、監督にはうってつけの人材だと誰もが認めている。まだ現役続行を望む多くのファンには目もくれず、現役引退を決断した彼の勇気には頭が下がる思いだ。
生涯巨人を貫き、誰よりも愛する彼だからこそ、巨人軍日本一奪還に相当の闘志を燃え滾らせ、引き受けたものと想像がつく。
本日は、彼の英断に敬意を表すると共に、これまで歴代巨人軍監督として君臨した方々を振り返り、巨人監督に纏わるエピソードを紹介し、私なりの持論を綴りたい。
1 生え抜きしかなれない巨人
巨人というチームは特別で、日本プロ野球黎明期から球界の盟主を担って来た。もちろん優勝回数もダントツに多い。それだけにそれを束ねる巨人軍の監督は特別な人しかなれなかった。一番は統率力であったり、現役時代の実績はもとより人間性・人格ともに優秀で、周囲の人望が厚い方でなければなれなかった。川上、王、長嶋、原などはそれに嵌る人格者だった。
そして絶対条件として、入団から引退まで巨人一筋に活躍した人間しかなれないという不文律のようなものまである。
実際に巨人の歴代監督は、すべてその条件に則っている。一度も他球団のユニホームに袖を通した選手やコーチ・スタッフで、巨人の監督に就任した人は皆無だ。これは正力亨オーナーの時代から読売グループの基本方針なのか、はたまたナベツネ読売グループ社長の個人的な発想なのか、超絶紳士集団として、他の地は混ぜないといった血統の良さを長らく継いでいる。
巨人の監督で優勝できなかったのは、原監督が球団幹部との確執で自ら辞任した後を受けた堀内恒夫だけだ。2年間で優勝争いに絡めず、解任された格好だ。自分がチームを立て直せなかった責任も薄く、今も解説者として好き勝手な言い放っている。
2 幻に終わった巨人軍監督候補
生え抜きしかなれない一例として、巨人軍が優勝から遠ざかって、球界の盟主から転落するピンチに見舞われた時期が合った。
上田阪急と広岡&森西武の台頭だった。日本一から遠ざかっても、監督の外部招聘は無かった。長嶋監督と王監督の成績不振の急場に登場したのは、紳士を絵に描いた藤田元司だったし、堀内監督の解任後も原監督だった。
巨人出身の名選手で、他球団で実績を挙げた監督であっても、再び巨人軍監督に招聘されることは無かった。ではそれに該当する方々を振り返りたい。
① 広岡達朗・・・頭脳明晰で卓越した野球理論の持ち主。球団創設以来、パリーグの
お荷物だった球団を建て直し、西武の第一次黄金期を築いた。川上野球
を伝承した管理野球が真骨頂で、すべて分業で行う野球スタイルだった。
しかし、ヤクルトや西武の監督として優勝請負人とまで呼ばれた知将
だったが、巨人に対して牙を剥いた経緯から、一度も監督としてお声がか
かることはなかった。
② 森 祇晶・・・巨人のV9時代の不動の正捕手。広岡が西武の黎明期から黄金期
を築いた後、バトンを託された。渡辺久信、東尾、工藤、潮崎、清原、石
毛、秋山、辻、伊東など豪華布陣で第二期黄金時代を築いた。
その後、堤オーナーの不用意な発言もあって、西武を去った後、その実
績を買われて大洋の監督を引き受けたが、思うように成績が上がらず、
シーズン途中で休養に入る事態となった。
そして、第一次原監督が辞任したときに、森新監督案が浮上したが、マ
スコミがスクープし、記事をすっぱ抜かれたため、森氏が激怒。この件を
巡り、混乱を恐れた巨人サイドが再考し、森監督誕生は幻と終わった。
③ 江川 卓・・・彼は過去、幾度も監督として名前が挙がった。まずは長嶋勇退時、そし
て第一次原監督辞任、そして今回の第二次原監督退任。その都度、最有
力候補として取り沙汰されるが、その都度幻に終わっている。
江川氏は評論家として、卓越した野球理論の持ち主で、正論をズバズバ
言う。しかし、それは現場の人間への圧力となり、選手の間で評判が悪
い。さらに、現役時代のダーティなイメージも強く残っている。中には、豪腕
投手として怪物の名をほしいままにずば抜けた才能を見せつけた江川信者
の根強いファンや彼を監督に推す専門家は多く存在した。
しかし、その時期のタイミングや不運も重なり、なかなかお鉢が回らず、
現役引退後28年も経過しているのに監督はおろかコーチの話も来ない。
水面下では横浜の監督への招致案もあったのだが、巨人に入りたくて浪
人した彼が、そうやすやすと他球団の監督を快諾するはずもなかった。
④ 松井秀喜・・・いずれ彼は巨人の監督になると目されるひとりだ。しかし、後輩の高橋
に先を越されたのは、松井氏は、ニューヨークでの生活がお気に入りらし
く、もう少し羽を伸ばしたいタイプだと感じる。自己犠牲を覚悟してまでも巨
人軍のためにという意識は薄い気がする。監督としてよりも、まずは打撃コ
ーチで指導力を磨いたほうが長期政権を担う大監督への着実なステップと
なる気がする。後輩の高橋に先を越され、プライドを傷つけられた彼が、意
固地となって、監督就任を固辞する可能性もある。いずれも時期尚早だ。
3 おそらく今後、巨人監督にはならないであろう面々
理由は他球団の監督に就任し、打倒巨人を実践したためだ。
① 中畑 清・・・DeNAの監督として結果を出せなかった。評価は高くない。A型
② 高田 繁・・・日本ハムの監督や現在もDeNAのゼネラルマネージャーをしている。A
型
③ 黒江 透・・・V9戦士で監督をしていないのは、彼と柴田勲、末次利光だけ。彼は面
倒見がよく、監督というよりコーチが適任だと思う。O型
④ 落合博満・・・中日の監督として、巨人と渡り合い、監督としても実績は十分。今は
GMだが、いつでも他球団の監督話が舞い込み、頼まれれば金銭次第で
いつでも引き受けるに違いない。O型
⑤ 清原和博・・・コーチはありえるだろうが、選手として一流でも、人に教えるのは不得
手そうに見える。理論的かつ穏やかなコーチングは想像できない。兄貴分
として選手以上に目立つ気がする。B型
⑥ 工藤公康・・・ソフトバンクの監督。1年目に日本一に。親しみやすく、選手に愛され
る監督だと思う。しかし、他チームの監督になったので巨人監督はこの時
点で却下。O型
⑦ 仁志敏久・・・独特な野球理論を持っているが、それを他に受け入れてもらえない印
象。我が強く、調整力や統率力は疑問符がつく。O型
私は、B型の監督は、選手以上に自分が目立ってしまうため、選手を育て、伸ばすことが難しいと思う。教えるのも苦手。金田、長嶋、野村がこの型で、優勝経験は多いが、独特な野球理論で選手が理解するには時間がかかる。金田は退場件数No.1、長嶋は動物的なカンで指導するタイプで、選手が理解するのに苦しむ。野村はコンピューター野球で、データ重視。選手は監督を怖がって縮こまってしまう。
他の監督経験者のB型は、石毛、古田、野村(広島)、森脇、牛島、藤田平、尾花らで、選手としては一流だったが、監督として実績を挙げるまでには至っていない。
監督に招聘されないB型の一流選手は、福本、掛布、清原、門田、谷沢ら。
4 監督として可能性を残す巨人OB(適任者)
高橋新監督が誕生したばかりで、次期監督を考えるのは失礼だし、長期政権を担えるよう応援するつもりではいるが、巨人の行く末を考えた場合、ある程度監督候補者を絞り込んでおいたほうが良い。巨人OBが最優先だが、私が考える監督として可能性を残すのは以下の方々だと思う。
篠塚利夫・・・原監督時代には盟友で打撃コーチやヘッドを務め、一流の打撃理論で選
手を育てた。
山倉和博・・・江川とバッテリーを組んだ捕手。あまりコーチとして呼ばれないのは、人
望が薄いからか?A型
松井秀喜・・・たぶん要請を受ければ考えるだろうが、チームのために身を粉にして働
けるかが疑問。責任感の問題。
保身的で危ない橋を渡りたがらないのがO型の本質。自信が持てなければ
引き受けないだろう。
村田真一・・・総合バッテリーコーチからヘッド昇格。選手からの信望があり、捕手出身
だけに全体を掌握する力に長ける。O型
吉村禎章・・・二軍監督での実績はあり、いつでも監督業を任せられる。選手の力量を
見抜く眼力がある。O型
岡崎 郁・・・二軍監督経験者。若手選手の育成に力を発揮した。A型
原 辰徳・・・高橋監督が結果を残せず、Bクラスに低迷するようなら、3年の満期を持
って解任され、原の再登板もありえる。それほど原監督の実績は秀逸してい
る。A型
しかし、今回、世代交代が一気に進んだ巨人首脳陣において、上に挙げた方々が巨人の監督を要請されるのは危機的状況の時だろう。
私は現役選手時代に、スーパースターでなければ監督として大成しないとは思わない。現にONは、監督としては川上・原両監督に比べれば、戦績は良くない。しかし、巨人ファンはチームの顔として、華がある人を監督に求める傾向がある。
森さんや広岡さんは、V9戦士とはいえ、そんなに素晴らしい成績を残したわけではなかった。しかし、指導者としては超一流だった。原さんも、巨人の4番の座を守ったが、名球会にその名を刻んではいない。
巨人の生え抜き選手で名球会に入った人は、堀内恒夫以来出ていないことを考えれば、V9以降は名選手が少ないことがわかる。
よって超一流の選手だった者に監督を要請すること自体、可能性が低くなっている。
5 巨人軍の歴代監督で、私が選ぶベスト5
1位 川上哲治 リーグ優勝11回 日本一11回 1066勝739敗 勝率.591
2位 原 辰徳 リーグ優勝 7回 日本一 3回 947勝712敗 勝率.571
3位 水原 茂 リーグ優勝 8回 日本一 4回 881勝499敗 勝率.638
4位 藤本定義 リーグ優勝 8回 日本一 0回 422勝168敗 勝率.715
5位 藤田元司 リーグ優勝 4回 日本一 2回 516勝361敗 勝率.588
さて、今日の記事も巨人を愛するあまり、巨人軍の監督に纏わるエピソードを好き勝手に書きまくったが、悪意はない。巨人の行く末を案じて、これまでの様々な事象を列挙したまでで、その昔ミスタージャイアンツの長嶋が現役引退の際、口にした「巨人軍は永久に不滅です」をより具現化し、強い巨人を築いてほしくて要望も交えて書いた次第だ。
記事作成:10月29日(木)